「…………あれ?」

「柚月、どうかした?」


まだ家の中に入っていなかった彼方が、私がいつまでもカバンを漁っていることを不思議そうに見つめている。


あれ、えーっと……


「……柚月?」

「え、嘘」


サーっと血の気が引いていく。

肩からカバンを下ろし、必死に中を漁った。


いつもの入れてるところにも……ない。

カバンの底に入り込んでる、とか……


「…………ない」

「柚月、大丈夫? どうかした?」


心配そうに、彼方が駆け寄ってくる。


ギギ……とぎこちなく顔を彼方の方に向け、

一言。




「鍵、家の中に忘れちゃったみたい」




乾いた私の笑い声がだんだんと暗くなっている夕空に響き、そっと静かに、消えていった。