「……私、やっぱりディルク様が好きです」
ディルクは動きを止め、口を開こうとした。が、その前にローゼがまくし立てる。
「や、あの、返事は言わないでください。敵わない気持ちだってのはわかってます。でも、だからって、私の気持ちはそんな簡単に変えられないので。とにかく絶対に愛人になるのだけは嫌でっ」
(何言っているの、私。こんなこと言われたってディルク様は困るに決まっているのに。私のことなんてなんとも思ってないんだもの)
それでも、すがるように言ってしまうのはまだ希望を捨てられないからだ。
このまま一緒にいれば、少しはこちらを向いてくれるのではないかと、願ってしまう。
『守ってやる』なんて冗談でも言われたら余計だ。
「だから、あのっ、真っ赤になったり、うろたえたり、……してしまうんです。……ごめんなさい、分不相応なのはわかっています。気持ちを求めたりしません。だから……嫌わないで」
しどろもどろになりながら、最後にはもう何を言っているのか自分でも分からなくなっていた。
「分かってるよ」
ポンと頭に手をのせられてから離れるまでが、ローゼにはとても長い時間のように感じられた。
背中を見せて歩き出すディルクの足音を聞いているだけで、ローゼは泣きたくなる。
「……だったら、期待させるようなこと、言わないで」
触れられた髪からぬくもりを探し出すように自分の手をのせ、小さな恨み言を呟いた。



