それからどのくらい眠ったのか。
次にローゼは、額のひんやりした感覚で目を覚ました。

部屋には誰もいなかったが、額に乗せられたタオルが冷たくなっており、べッド脇には薬と水が置いてあった。
ジルケが持ってきてくれたのかな、と感謝しつつ、食欲はなかったので薬を飲んですぐにまた眠った。

深い眠りから覚めたのは、夜になってからだ。熱はすっかり下がったらしく体は軽くなっていた。
汗がびっしょりで、着替えようと服を探していると、廊下からバタバタと音がして扉が開く。


「ジルケ? タオルと薬をありがとう」


息を切らして入って来たジルケは驚愕の表情を浮かべて飛びついてくる。


「ローゼ、大変!」

「え? 大変って……」

「あなた、エミーリア様付きの侍女に任命されたのよ?」

「え? 侍女……?」


侍女は雇われていることには変わりないのだが、使用人とは少し立場が違う。屋敷に仕えているというよりは、主人個人に仕えているという感覚だ。
フリードにとってのディルクがそうであるように、エミーリアの侍女のメラニーも、ベルンシュタイン家から連れてきたと聞いている。

良家の夫人に仕える場合にはそれなりの教育も必要だ。メラニーは、平民ではあるが裁縫の腕前に関しては右に出るものがいないと聞いている。


「どうして? メラニーさまは?」

「メラニーさまと共に付くようにって。一体どうして? エミーリア様もローゼが気に入ったのかしら」


ローゼが咄嗟に思いついたのは、彼女の兄のギュンターのことだ。