「どうせ、意地になって飲み過ぎたんでしょう」
「……う。まさかあんなに強いとは思わないだろう。エミーリアがあんなに弱いのに」
「兄妹とはいえ体質は真逆のようですね。立てますか?」
ディルクはフリードに肩を差し出した。
顔こそ平静にしているが、フリードは結構酔っぱらっている。立ち上がるのも億劫だし、歩き出したらふらふらと方向が定まらない。
「自室でいいですか?」
「ああ、さすがにこの酒臭さではエミーリアに嫌がられる」
「何をいまさら格好つけているんですか」
ディルクは主人を支えて歩き出した。彼はディルクの肩に頭をのせ、半分寝ぼけながら呟いた。
「……な、ディルク」
「なんですか?」
「俺の傍からは離れるなよ。第二王子に気に入られたとしても……」
そのまま、フリードは目を閉じる。どうやら限界が来たらしく、一気に体重がかけられてディルクは思わずよろける。
仕方なく彼を背中に背負い、部屋に連れて行ってベッドにおろした。
一日に二度も人間を運ぶ羽目になるとは、と思いながらも、フリードが最近は見せない無邪気な寝顔にディルクは苦笑する。
「全く、……なに言ってるんだか。いらぬ心配ばかりして……」
布団をかけ、ディルクは静かにフリードの私室を出る。
そのまま自分の部屋に戻り、ベッドのふくらみを見て、そういえばローゼがいたのだったと思いだした。
額を触れば、最初よりは下がっている。
(夜が明けたら薬を頼むか。……仮眠ならできそうだな)
部屋にある安楽椅子に身を投げ出し、ディルクは目を閉じた。
全くおかしなことになったものだと、思いながら。



