(ここで少し休んでから戻ろう)
そう思ったとたんに頭がぐらりとする。
(なんとなく、温かくはなってきたかも?)
それは熱があがったからなのだが、ローゼはまともな思考能力をなくしていた。
「くしゃん、くしゃん」
とまらない咳を毛布で抑え込み、なるべくうるさくならないようにと身を縮める。
その時だ。
ギィ、と扉が開いた。
見回りの従僕かと焦って隠れようと頭から毛布をかぶりなおした時、ランプを持っている男性の顔が見えた。
「デ、ディルク様?」
「……ローゼじゃないか。なにをしているんだ」
驚いたことに、入って来たのはディルクだ。
シャツにジャケットといういつもの隙の無い格好のままで、髪が少し濡れている。どうやら外から戻ってきたところらしい。
「……くしゅん! すみません。私っ」
鼻をぐずぐずさせながらも、弁明しようと顔を上げると、ディルクは近づいてきてローゼの顔をランプで照らした。
「風邪を引いたか? なぜ部屋で寝ていないんだ」
「すみません。私、くしゃみが止まらなくて。……うるさいでしょう。同室のジルケにもうつしちゃいけないなと思って、ちょっと散歩を」
「馬鹿だな。だからってこんなところに居たら悪化するだけだろう」
手首を掴まれ、立たされた。ローゼを見つめるディルクの眉が不快を表すように皺を寄せた。



