マドンナリリーの花言葉



「くちゅ、くしゅん!」


ベッドに入ってどれくらいたったのだろう。毛布にくるまりながら、ローゼは震えの止まらない自分の体を抱きしめた。


「うーん」


向かいのベッドでは同室のジルケが寝返りを打っている。今日は急な来客もあり、忙しかったはずだ。
先ほどからくしゃみが止まらないことで、起こしてしまわないかとローゼはひやひやしている。

頭も朦朧とするけれど、目は冴えてきた。
どうせ寝られないなら横になっていても仕方ないかと、ローゼは毛布を体に巻きつけて部屋から出た。

ここは住み込みの使用人が使う部屋が並ぶ区画だ。夜も更け、使用人も大半は自室に戻っている。
薄暗くなった廊下を抜け、厨房やリネン室など仕事のための部屋が並ぶ一角へとやってくる。一番奥には外に出るための裏口があった。


「ここなら……」


ローゼはリネン室の扉を開けた。棚にはシーツやテーブルクロスなど、毎日交換するものが置かれていて、部屋の半分はアイロンをかけるためのスペースになっている。アイロンは鉄製のコテのようなもので、熱して使う。そのためこの部屋はいつも熱いくらいなのだ。
だがしかし、火が落とされた部屋は暗く涼しかった。


「だめかぁ。当たり前ね。……くしゃん。ああでも、ここなら誰もいないし」


少しくらい休んでいてもいいだろう、とローゼは壁に背を預けて座り込んだ。おしりのあたりは冷たいが、毛布を持ってきたのでじっといていれば寒さはしのげる。