マドンナリリーの花言葉


「案外好奇心の塊なんだな。いいよ、話せるところは話そう。……俺は確かに、ドーレ男爵家の人間だ。しかしドーレ男爵家というのはもうないんだ。九年前に爵位は剥奪され、俺はただのクレムラート家に仕える使用人になった。それ以上でも以下でもない」

「それってみんな知っているんですか?」

「古参のものはみな知っているよ。俺の両親も妹も、九年前に死んだ。今日行った墓に眠っているのはその三人だ。名前も書いてあるよ。家名に泥を塗ったということで、男爵の称号は書かれていないけれどね」

「……そうなんですか」


母から聞いた情報と合わせれば、なかなかに壮絶な過去だ。

不倫中の男爵が馬車を飛ばしていて、同じく不倫旅行中の伯爵の馬車とぶつかる。
それで伯爵が亡くなったことにより男爵は処罰されたのだろう。

ただ、そうなると母親と妹までもが死んでいるのが不思議だ。ディルクが生きているのならば、一家がみんな処罰されたわけではないのだろうに。


「あの、立ち入ったことを聞きすぎかもしれないんですが、お母さまと妹さんはどうして……」


ディルクは頬杖をついたまま、目の前のサンドイッチの皿を見つめる。先ほどから一口も食べていない。
答えてもらえないかと覚悟して、ローゼは俯いて水を一口飲む。と、ぼそりとディルクが話し出した。


「……心中だ。爵位剥奪に絶望した母が、俺と妹とともに死のうとした。……俺は、その心中事件の生き残りだ」


ごほっと噴き出してしまった。
口元が濡れ、慌てて袖で拭く。そうしてから、こんなの淑女のすることじゃないと、動きを止めた。