「いや、悪い。君を惑わすようなことを言いたかったわけじゃない。とにかく食べてくれ。まだ話は終わっていない」
「あ。はい」
食べかけのサンドイッチを口に詰め込み、お水で流しこむ。
お腹にものがたまったら、なんだか元気が出てきた気がした。
「表情が豊かで、……本当に違うな。変な目で見て悪かったよ」
「いえ。これで私とパウラさんに血縁関係がないのはわかってもらえたなら逆に良かったです」
ほっとして呟くと、ディルクは怪訝そうな顔をする。
「……なぜ彼女の名前を知っている?」
「あ、すみません。盗み聞きしたときに名前も聞こえてしまいました」
機嫌を損ねてしまったと慌てて両手を振って弁解する。
ローゼは隠し事が苦手だ。見たこと聞いたことをすぐにポロリと言ってしまう。
「なんだ。そうか」
ディルクはローゼの様子を見てホッとしたようだ。「盗み聞き……たしかにそうだな」とくすくす笑う。その瞳には今までにない優しさが宿っていて、ローゼの心臓は激しく高鳴ってくる。
「ディルク様。聞いてもいいですか? あの方、ディルク様のことをドーレ男爵と呼んでいましたよね。ディルク様は男爵家の方なんですか?」
「知ってどうする?」
「どうもしません。ただ、あまりに分からないことだらけで、頭がおかしくなりそうだから。少しでも正しい情報を知りたいだけです」
クスリ。ディルクの笑い声が耳をくすぐった。



