「……最初、君は彼女の縁者なのかと思っていた。でも違うんだな。親御さんと話させてもらって納得したよ。信じられないほどそっくりだが、君は彼女とは何の関係もなさそうだ」
ローゼは唇をかみしめる。
「あの方はどなたなんですか? ディルク様の恋人ですか?」
と、ディルクの動きが止まる。気になって見上げれば、彼は目を点にしてローゼを凝視していた。
「わ、私、変なことを言いましたか?」
「いや。……そういう風に見えるのか? 彼女は俺とでは随分年が離れているが」
遠目だったし、お似合いにみえた。
似た顔をしているのに自分じゃないことに歯噛みしたくなるほど。
「随分って……おいくつなんですか」
「いくつだろう。正式な年齢は知らないが。俺が子供のころからあの人は大人だった」
ディルクは動揺を抑えるようにグラスの水を一気に開けた。
「なんだ。……私てっきりディルク様の恋人なんだと」
そんなに年配にも見えなかったけれど、ディルクとしては恋愛対象に入る相手ではなさそうだ。
ホッとして胸をなでおろし、軽食のサンドイッチをつまむ。
安心したせいか食べ物がするする喉を通っていく。
あっという間に一切れ食べ終え、もう一切れに手を伸ばそうとして、はしたなかったかと躊躇する。
すると、クスリと優し気な笑い声がローゼを包んだ。
「好きなだけ食べるといい。君は元気なほうが可愛いな」
「かっ……」
可愛いだなんて。
ローゼの時間が一瞬止まり、体内の熱が顔めがけて駆け上がってくる。
その様子に、ディルクのほうが驚いた。



