パウラの声は、淡々としたものだったが、厳しい声だった。


「私……」

「私は今日何も見なかったことにいたします。どうかご自分と王太子様を大切になさって。……あなたが王太子様をとても大事に気遣っていること、私、たった一度見ただけですぐに分かりましたわ」


クリスティアーネはフェリクスが咳混めばすぐに背中をさすってあげていた。きっと献身的に尽くしてきたのだ。

クリスティアーネは両目に涙を浮かべ、火照った体を上から締め付けるようにドレスの前をぎゅっと合わせて、走り去っていった。

パウラは同情的な目で彼女を見送り、部屋の扉を閉める。
残されたクラウスは、ふらふらとベッドに座り、浅い呼吸を繰り返している。


「……クラウス様、大丈夫ですか?」

「まさか、……君がくるとは思わなかった。……危なかったよ。どうもあのお方は苦手だ。気位が高いのはいいんだが、頑張る方向を間違えている」

「そうね」


パウラはクラウスの額に手を当てる。


「冷たいな」

「扉の前に、長い時間いましたの。……私はクリスティアーネ様の気持ちも分かります。嫁いできて子を産めないのは辛いものです」

「彼女の味方をするのかい?」


嫌そうな顔で見上げてくるクラウスに、パウラは微笑み、その頬にキスをした。


「いいえ。あなたはあげられないと思いました。だから乱入したのです」


唇が離れた時、パウラの頬は真っ赤に染まっていた。クラウスは体の奥底から湧いてくる欲求を抑えきれず、彼女のピンクブロンドを胸にかき抱く。