だから。
パウラは自分でいいのか、本当に自信がない。
仮に結婚して子供ができても、過去がバレたら? 無名の画家とかつて関係を持った女だと知れたら、クラウスの名前にまで傷がつくのだ。
「やっぱりあなたはちゃんとしたお妃さまを娶るべき……」
ぐいと引っ張られ、パウラは言葉を無くした。クラウスが唇を塞ぎ、更にワインを流し込んでくるのだ。
溢れたワインが唇の端を伝う。と、ようやく力が緩んでパウラは彼の拘束から逃れた。
「もうっ、何をするの?」
「やれやれ、そんなことを聞くために飲ませたのではないよ。パウラ。本心を言ってごらん。人が俺をどう思うかなんて関係ない」
「だってっ……。私の過去が知られたら」
「君は子爵による陰謀の被害者だ。もしどこかからバレたら本当のことを言うだけでいい。なにも悪いことはしていないだろう」
「でも人の妻だったのよ?」
「子爵は君に男としては手を出さなかったんだろう? キス一つでこんなに動揺する君にそんなこと言われてもな。それでいえば俺だってこの年になるまではそこそこ遊んでいる」
「あなたはいいのよ。男だもの」
「そう言える女も案外いないものだよ。なあパウラ。今日は祝いだよ? 父上も俺たちのことを認めてくださった。なのにどうして当人である君が認めてくれないんだい」
「それは……」
パウラは自分に自信がない。人形として生きてきた自分が、どう生きていったらいいのか分からない。
普段はそれでもこんなに声を荒げることなどない。今日はなにかのタガが外れてしまったのだ。
「私のせいであなたが悪く言われるのが耐えられないからよ……!」
お酒とは恐ろしいものだとパウラは痛感する。
絶対に言いたくない本心が、口をついて出てしまうなんて。
恥ずかしさに、消えてしまいたくなった。
「もうっ、……二度とお酒なんて飲まないわ」
興奮したパウラの瞳にじんわりと涙が浮かんできた。
クラウスは満足そうに笑うと、彼女の腰に回した手に力を込めて、再びキスを落とす。



