「そうしてあなたはパウラを再び取り戻したうえ、彼女を攫おうとした男爵への復讐も果たした。実際、たいしたものだと思いますよ。自らはほとんど動かず、これだけ周りを陥れる。あなたはある意味相当の才覚の持ち主だ」

「はっ……嫌味かねそれは」

「その能力を正しく使っていただければ、父もあなたともっと親しくし続けたでしょうに」

「今の国王は愛想のいいものにばかり興味を抱く。日和見主義は好かんよ。……で、よくもまあ大した証拠もなしにそこまで話をでっち上げたもんだ。まああながち間違ってもいないのが恐ろしいところだけれどな。……君は一体どうする気だ?」


乾いた笑いを響かせた子爵に、クラウスは満面の笑みを見せる。


「それは最初に言いましたよ。俺は、囚われの姫君を助けに来たと」


クラウスのまなざしが、無表情で立ち尽くすパウラに注がれる。彼女は、小さく身じろぎをした。


「正式な婚姻を交わしていないのなら、俺がいただいてもいいでしょう。パウラ殿、俺と一緒に来ませんか?」


クラウスが差し出した手に、パウラは応えない。アンドロシュ子爵は思わず噴き出した。


「残念だったな王子。パウラは目が見えない。それに美しくは見えるがもう歳だぞ。君が妻に迎えられるような年齢じゃない。届けがなかろうとも彼女は私の妻だし、ローゼは私の娘だ」


ディルクの目の前に子爵の杖が飛んできた。驚いて腕で払ったその瞬間、子爵は先ほどまで杖を突いて歩いていたとは思えない素早い動作でディルクに体当たりして突き飛ばし、ローゼを引き寄せた。


「きゃあっ」


そして、あっという間に彼女の口を手で塞いで拘束した。ディルクは慌てて起き上がったが、子爵がローゼののど元に小さなナイフを突きつけるのを見て、動きを止めた。