「ドーレ男爵はパウラを救い出す計画を立てる。パウラには自由がないのだから、子爵が留守にする日を狙って連れ出すしか方法はない。子爵の不在日はエーリヒ殿かパウラが探り出したんだろう。アンドロシュ子爵は罠をはるつもりだったのだろうから、自ら漏らしたのかもしれない。……俺はあの事故自体が、仕組まれたものなんだと思っている」
「あの事故って。……九年前のあれがですか?」
問いかけたのはディルクだ。クラウスは口元にうっすら笑みを浮かべたまま頷く。
「そう。可能なはずだよ。伯爵家が別荘を使う日を調べておく。そしてその日に不在にする旨をパウラ夫人に伝えておく。それだけで、男爵とパウラの逃亡日と伯爵が別荘に泊まる日が同じになる確率はぐんと上がるわけだ。子爵は出かけたふりをして、屋敷に潜む。ドーレ男爵は子爵家へと向かい、パウラと示し合わせ、屋敷を出る。それを確認した子爵は伯爵家の別荘へ急使を送る。おそらくはそこの侍女殿だろうね。……奥方が急病でもなんでもいい。とにかく伯爵が自分のほうから動く理由を伝えれば、馬車に乗り込ませるのは簡単だ。そして案内と称して一緒に乗り込み、ヤンに御者をさせてドーレ男爵の馬車を追いかけさせる。伯爵が死んでしまったのは果たして予想外だったのか。もしくはそこまで計算したものだったのか、そこは分からないがね」
アンドロシュ子爵は黙ったままだ。先ほどまでの演技はなりを潜め、ただ冷静に凍てつくような冷めた瞳でクラウスを見つめている。



