「……ディルク様、この花束は、誰に渡すんですか?」

「それは墓前に供える為のものだ」

「お亡くなりになられたのはどなたなんですか?」


立ち入った質問かとも思ったが、思い切って聞いてみた。
しかしディルクは黙ったまま、馬の背を撫で、「行こう」とつぶやいた。

そんなことも教えてもらえないくらい自分は遠い存在なのかと思えばショックだ。
ローゼが黙ってしまえば、ディルクから話しかけられることもない。馬の蹄の音がだけが、伴奏のように響いている。

こんなに傍にいるのに、むしろ遠ざかっていくような気がして、焦りでローゼはつい言ってしまった。


「すみません、余計なことを聞きましたか。でも私、知りたいんです。……ディルク様のこと」


びく、と体が固まったのを感じた。

女性からこんなこと言うのははしたないのだろうか。

だけどローゼは黙っていられなかった。
待っていて、彼が好きになってくれるのならいくらでも待とう。だけど、そんな未来は思い描けなかった。ディルクの優しさは、義務に近く、情熱はない。ローゼが仕事に慣れればなれるだけ、話す機会は無くなっていってしまうだろう。

こんな風に近づけるのはもしかしたら最後かもしれないのだ。


「私、……ディルク様が好きなんです」


背中に彼の存在を感じながら、ローゼは俯いて、花束を掴む自分の指を見つめながら消え入るような声をだした。
ピクリ、と手綱を握る手が動いたのを、見逃さなかった。けれど、ディルクからは返事がなく、馬はほどなくしてローゼの実家の花農園についてしまった。


(告白は、なかったことにされるのかしら)


馬から降ろしてくれる仕草は優しさに満ちているのに、視線を合わせてはもらえない。
駄目ならダメで、嫌いだと言ってくれたらいいのにと涙ぐみながらローゼは彼を見つめる。