「あ、あの」

「私の娘? ええ、そうに違いないわ。名前はなんていうの? ローゼ? 花の名前ね」


パウラはローゼの顔を両手で撫でつけるようにして触る。驚いたことには目に涙を浮かべているのだ。ローゼは言葉を失い、されるがままになっている。
子爵の咳払いをきっかけに、ゾフィーがパウラのもとへと寄る。


「良かったですわね、奥様。積もる話もありますでしょう。どうぞ、女同士、別館でゆっくりお話しなさってください。男の方はこちらで。ただいまお茶をご用意しますから」


そしてパウラとローゼを連れて行こうとする。
このままローゼを子爵家でひとりにするわけにはいかない。


「待ってください」


後ろから声をかけたのはディルクだ。


「君っ、何も言うなと」


子爵が遮るよりも早く、ディルクは彼女たちに近づき、パウラの手からローゼを取り戻した。


「……申し訳ないがあなたにこの娘は渡せません」

「その声、ドーレ男爵? どうして?」

「いいえ。私はドーレ男爵ではありません。ディルクと言う名のローゼの婚約者です」

「ディルク……」


パウラは傷ついたような顔をしてディルクと見上げる。ディルクは痛ましそうに彼女を見つめた。


「今日ここに連れてきたのは、あなたとの血縁関係を確認するためです。あなた方は間違いなく親子なんでしょう。ですが、彼女は私の妻となる人です。ここに置いてはいけません」

「……あなた? 話が違うわ。この子は私と暮らしたいと言っていたのではなかったの?」


無表情のままパウラは子爵へと視線を向ける。子爵は軽く舌打ちし、ゆったりと椅子に座りなおす。