ディルクはハッとなった。パウラとの密会を報告できる人物がいるとすれば侍女のゾフィー以外にない。
ということは、やはりゾフィーはパウラの味方ではないのだ。
「あれは、……父の墓参りの時に偶然会っただけです」
「嘘をつけ! 証言なら侍女からとれる。とにかく君を屋敷に入れるなんて冗談じゃない!」
突然の剣幕にローゼは怯え、ディルクの腕に抱き付く。
それを見て、アンドロシュ子爵が眉を吊り上げた。フリードは仲裁に入るように二人をなだめる。
「落ち着いて下さい、子爵。彼はローゼの婚約者です。彼の許可がなければ、ローゼをここに連れてくることも叶わなかったのですよ?」
「なんだと? ローゼ、なぜこんな男に。こいつは君の母親にまで手を出そうとしているんだぞ」
「違います。……違います!」
ローゼは固く目を瞑って首を振り、ディルクの腕にしっかりとしがみつく。
彼がいなければてこでも動かない、といった様子にアンドロシュ子爵も諦めたようにため息をついた。
「……ふん、ならばとりあえずは入るといい。しかしパウラの前ではひと言も話すんじゃないぞ。ローゼはこちらへ」
手を差し伸べられ、ローゼは躊躇したがフリードから無言で背中を押され、戸惑いながらも子爵の手を取った。
「パウラはどこぞの男爵のせいで目を悪くしていてな。……ローゼ。どうかパウラに優しく呼びかけてやって欲しい。「母様」とな、子供を失ってずっと寂しい思いをしてきた妻だ。君がいてくれたらどんなにか慰めになるだろう」
ローゼに対してはまるで本当の父であるかのような優し気な態度だ。しかしながらシナリオの説明でもするように次から次へと段取りを決められてしまい、ローゼは先ほどからひと言も離せない。
子爵の会話には、人の意思を聞く“間”がほとんどないのだ。



