マドンナリリーの花言葉


「悪いが持っていてくれるか?」

「はい!」


ローゼは袋を受けとり、花が上向きになるように持った。


「ではいくぞ、ブルーメン花農園だったな」

「はい」


そうして、馬は走り出した。
花束が入った袋からは、ユリから出される芳醇な香りがする。それが、心臓をはやらせる。自分を包むように回された腕。ディルク様の手は大きいなぁとぼんやり見ながら思う。ドキドキして、ちっとも落ち着かない。

しばらくは飛ばし気味で話す余裕もなかったが、小高い丘まで登ったあたりで、馬の歩みは緩やかになる。
街道沿いの町の入口には、川から引いた用水があった。ディルクはそこで止まり、一度馬に水をやることにした。
ローゼも一度降ろしてもらい、凝った体をほぐした。


「疲れてないか、ローゼ」

「大丈夫です。ディルク様こそ」

「……同じ使用人だ。様などつけることはない。俺は大丈夫だが、馬はきつかったようだな。ふたり分の重さとなるといつもと勝手が違うらしい」

「それは悪いことをしたわ。ごめんね」


ローゼが優しく馬の背を撫でているのを、ディルクは目を細めて見つめる。
視線を感じて、ローゼはドキドキして身動きが取れなくなってしまった。

この視線が、いつも不思議なのだ。

決して恋に溺れるような熱のこもったものではないのに、そらされずにじっと見つめられる。
なにかを問いかけようとしているような、意味ありげな視線。