仮にも子爵家に嫁いできた娘がすでに不貞を働いていたのだ。「おろせ」といわれてもやむを得ないと思っていたが、エーリヒのとりなしもあり、夫は「どうせ私との間には子ができないのだから」と産むことを認めてくれた。
パウラはホッとし、不満はたくさんあれど、自らの過ちを赦してくれた夫に今後は尽くそうと決めた。
しかし、産んだ子供は死産だった。
自らの不貞の罪を神様が許してくれなかったのだと思ったが、すべての希望を奪われたような気分だった。
「私だ。ゾフィーはいるか?」
「まあ、旦那様どうなさいました?」
回廊側の扉が開いた音がする。応対するのはゾフィーだ。
彼女はパウラが嫁入りしたときから、ずっとパウラについている侍女だ。子爵が最も信頼する侍女で、パウラに関する指示も子爵からゾフィーを通して行われる。
パウラも最初の数年は親身になってくれたゾフィーを信頼していた。社交界も知らぬまま親の元から離され、頼れる人は一番近くにいる人間だけだったのだ。ゾフィーもそれに応えるようにかいがいしく世話をしてくれた。
しかし、ゾフィーはパウラの前では優しい顔をしつつも、結局はアンドロシュ子爵の使用人なのだ。
死産を経験してからパウラは荒れた。
子爵からの変質的な欲求もうんざりして、父に訴えようと手紙を書いた。
しかしそれはゾフィーによってもみ消され、父親が死んだことさえ、数年経ってから聞かされた。
ゾフィーは決して味方ではないとパウラが気付いたころには、もう取り返しがつかないところまでいっていたのだ。



