マドンナリリーの花言葉



つばの大きな帽子をかぶり、カモフラージュ用の小さな鞄を持ってローゼが再び厩舎に来たのは、十分後だ。
ディルクは彼女に気付くと、馬の形をくっきりと映っていた地面の影から目を上げ、思いの外軽装な彼女を見やった。


「少ないな。荷物はそれだけか?」

「はい。顔を見てくるだけですし」

「馬車にしようかとも思っていたが、それなら馬でも大丈夫か」


ディルクは頷くと、彼女から鞄を受け取り、馬に括り付けた。
ローゼにとっては思わぬ幸運だ。馬で二人乗りとなれば否応なく彼と密着することになる。


「ひとりで馬に乗る気だったということは馬に慣れてはいるんだろう? 怖くはないな」

「はい」


ディルクは先にローゼをのせ、その後でひらりと馬にまたがった。
背中に彼の肩い胸板を感じて、ローゼの心臓はどんどん早くなっていく。

馬番は唇を尖らせて手綱を彼に渡した。


「いいなぁ、ディルク様。俺も可愛い女性と二人乗りしたいです」

「……だ、そうだぞ、ローゼ。次の休暇の際にはこの男に送ってもらうといい」


ディルクの返しに、ローゼはひそかに落ち込む。
そこは『他の誰にもこの役は譲らない』とかちょっと甘い言葉を聞きたかった。


「無理を聞いてくださってありがとうございます」

「ああ」

「ディルク様、こちらはどうします?」


馬番が持ち上げたのはマドンナリリーの花束だ。麻袋に入れられていて、当初は馬の背に他の荷物とともに括り付けるつもりだったようだが、ローゼが乗ったことで、荷物用のスペースは狭まれてしまっている。