ローザとディルクはブレーメン花農園を出た後、クレムラート領の南西の街にまで足を伸ばしていた。
最近物騒なこと続きだからリフレッシュしてこい、とのフリードからのお達しだ。

この街は南に位置するアーベンス侯爵領と隣接するため、あちらの特産品である絹織物が多く流通している。


「わあ綺麗な色ですねー」


今女性の間で流行している腰までの丈の薄手のケープだ。


「染めはこの街特産の花を使っているんです。ベニバナです」


領地境の街は文化の交流点でもある。綺麗なものが好きなローゼは、柔らかな淡い赤色で染められたケープを頬を緩ませながら眺めている。


「いいんじゃないか。似合う」


ディルクが彼女の手からそれを奪い取り、肩に被せる。金糸の入った紐で固定できるようになっており、胸元の空いたドレスを着た時には重宝しそうなものだ。

店員の女性は頬を緩め、「あら、お似合いですわ。値段は張りますがとても質のいいものなんですよ。どうですか? プレゼントに」と悪乗りを始めた。


「もらおうか」

「ありがとうございますー! 毎度あり」

「えっ、ディルク様待って」


焦ったローゼが止めようとするも、ディルクはさっさと支払ってしまう。


「失礼いたしますね」と店員が品物につけた札を取り外した。

「ディルク様、もったいないです。こんなに高価なもの」

「あのな、ローゼ」


店を出るなり八の字眉毛で追って来るローゼの腕を引きながら彼女の鼻の前に指を突き付ける。