「仕方ないだろう。君は留守番していてくれ。俺が一緒に行ってくる」

「そうね。まあ、おめでたいことだものね」

「そうだな。跡継ぎか。それとも君に似たお転婆令嬢か」

「やあね、お転婆になるなんて限らないでしょう?」


顔を寄せ合って話す伯爵夫妻は、誰の目から見ても仲が良い。


「まあ、まずはクラウス殿下に報告しよう。その返事を見てからアンドロシュ子爵へ返事をするよ」

「そうね。お兄様にも連絡しましょう」

「ああ。とりあえず手紙をしたためることにするよ」


立ち上がったフリードの服の裾を、エミーリアがつかんで止めた。


「どうし……」

「私のせいかしら。……ローゼを危険な目に遭わせることになったのは」


フリードの遮るように発せられたエミーリアの声には、ほんの少しの自戒の念が見える。
フリードは苦笑して、彼女の肩を抱く。優しく髪を梳きながら、言い聞かせるように耳元に唇を寄せた。


「らしくないな、エミーリア」

「……嫌がっていたのに、あの子を舞踏会に出席させたわ」

「あの時の君の判断は妥当だと思ったから俺が了承したんだ。いいか、この屋敷での最終決定権は常に俺にある。責任もすべて俺の肩に乗るものだ」

「フリード」


夫を見上げたエミーリアの瞳は、潤んでいる。フリードは目を細めて、彼女の目尻のほくろに口づけた。