一方、クレムラート家には手紙が二通届いていた。
一通はクラウス王子殿下の指示で調べていたことの報告だ。
ざっと目を通したフリードは感嘆のため息をつく。


「……調べるポイントを変えるだけでこんなにいろいろ分かってくるものか。第二王子は遊んでばかりだという噂だったが予想外に切れ者なんだな」

「まあ、お兄様がなんだかんだと仲良くしてらっしゃるから、ひと癖ふた癖ある方なんだろうとは思うわ」


エミーリアは同意しつつも、もう一通の封を開けた。ご丁寧に封蝋で封をされた仰々しい手紙は、アンドロシュ子爵からのものだ。
エミーリア宛だったので先に目を通した彼女は、無言でフリードへと差し出す。

『突然のお手紙をお許しください。
先日、妻のパウラとそっくりの娘がそちらに保護されているという話を耳にしました。
実はパウラが産んだ子が、生まれてすぐ行方不明になったのです。生きていれば、十七歳になります。
彼女は嘆き悲しみ、今でもずっとふさぎ込んだままです。
どうか、一度だけでもその娘さんと会わせてはもらえないでしょうか』

予想通りの内容だし、手紙だけで見れば、アンドロシュ子爵の印象は悪くはない。
しかし、フリードは不満を隠さずに言い放った。


「よくもまあ、いけしゃあしゃあと言えたもんだな」

「本当ね。見せるだけだとしても行かせたくないわ」

「そうもいかない。クラウス様との約束だからな」

「……こんな時に身動きが取れなくなるなんて」


体調を崩したエミーリアをフリードはすぐに医者に診せた。その見立てによると、どうやらご懐妊でしょう、ということだ。

結婚して二年。最初の半年は契約上の妻という立場だったから何もあるわけがないのだが、その後のふたりの仲睦まじさを見ていれば遅いくらいだろう。