「でも、そんなうまくいくはずない。私だって面倒を抱えるのは嫌だわ。そんな私に、エーリヒ様は私のお給金なら一生稼げないくらいの金貨を下さった。……最初は、お金に目がくらんだの。パウラ様の出産の手伝いにはいり、孤児院から死んだ赤子をひとり引き取って来て交換した。孤児院のシスターにも協力してもらって……私は死んだ子をパウラ様に見せたのよ。あの時のパウラ様の悲鳴のような声は忘れられない。……後悔したわ。なんでこんなことを引き受けてしまったんだろうって、……もう気が狂いそうで。ほどなくしてあのお屋敷を辞めて、預けていた孤児院からローゼを引き取って、私は逃げた。あの町にいたくなかったの。いつまでもパウラ様の悲鳴が頭から離れてくれなくて。そうして出来るだけ遠くに逃げようと移動していた時、馬車が轍にはまって。……助けてくれたのが今の旦那」

「……そうなんですか」

「彼は最初私の子だと思っていたのよ。『旦那はどうした? こんな寒い時期に赤ん坊を連れてどこに行こうとしているんだ?』って。……私も、最初は黙っていたわ。だけど、行くところがないと知って彼は私をここに置いてくれた。私は乳なんて出るはずがないから、ローゼが泣くじゃない? そうしたら知り合いの出産したばかりの奥さんに頼んでくれた。……感謝しかないわ。ローゼが無事に大きくなったのはあの人のお陰よ」


ローゼの母は、頬をうっすらと染めた。その横顔は、血縁関係などないはずなのに、ローゼに似ているようにディルクには思えた。