「お屋敷の馬を借りるなんて駄目でしょうか。すみません、私勝手が分からなくて」
「そうですね……。普段メイドさんたちは乗合馬車を利用しているようですが。それも先ほど出たばかりですしね。どうしましょう、ディルク様」
馬番は戸惑ったままである。
クレムラート家で所有する馬数は多く、今日乗る馬くらいは手配できるだろう。
ただ、馬術の能力も分からないメイドにおいそれと貸すことに抵抗があるようだ。
「……ローゼの実家は北のほうだと言ったな。向かう方向と一緒だ。途中にあるなら乗せていってやろう」
「え?」
「正確な場所はどの辺だ?」
ディルクは馬番に手綱を預け、地図を出して見せる。
思わぬ展開に、ローゼは心の中で恋の花の蕾が膨らんだような気がした。
「ああ。少し遠回りになるが、大丈夫だ。どうする? 俺に送られるのと、乗合馬車を待つのとどちらがいい?」
「の、乗せてくださいませっ」
これに食いつかない手はない。
ローゼは精一杯頭を下げ、すぐ用意してまいりますと部屋へと走った。



