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クレムラート領に戻ってから、エミーリアは体調を崩した。吐き気を訴え、乗馬も控え始める。するとフリードも心配で屋敷から離れたくないらしく、急ぎではない仕事は後に回し、室内で仕事をすることが多くなった。
するとそれぞれに付いて仕事をしているディルクとローゼにも時間に余裕ができる。
「急だが、ブレーメン花農園に行かないか。ご挨拶をしたい。フリード様にもエミーリア様にも了承は得ている」
「えっ、今日ですか?」
「ああ。ついでにどこかでゆっくりしてこいとも言われた。一泊くらい旅行を楽しんでこようか。宿は俺のほうで手配する」
「で、では、用意してまいります」
ローゼは自室に戻り、あまり動きを妨げないようなワンピースを選んだ。
結婚の話は偽装なのだろうから、とは思うがあまりにいろいろとことが性急に運ぶので頭が回らない。
支度をして厩に行くと、ディルクは小型の馬車を用意していた。
「今日はディナではないんですね?」
「ああ。泊りともなれば女性は荷物が多いだ……」
ディルクは言葉を止めた。ローゼの荷物が小さな鞄一つだったからだ。



