「あ、あの」
ディルクはディルクで恥ずかしそうに瞳をそらす。
彼としても、プロポーズをするならばそれなりの場所を選びたかったし、こんなついでのようなやり方はしたくなかった。しかし、のんびり時間をかけていては彼女を危険にさらすことになるので苦渋の決断だ。
ついつい早口でそっけない口調でまとめてしまう。
「とりあえず今は婚約者という形にさえなればいいんだ。そうすれば引き取りたいとアンドロシュ子爵が言い出しても、対抗できる」
「あっ」
(そうか。子爵様への対抗策として婚約しようって言ってるんだ)
しかし、その言い方が誤解を生んだ。
ローゼの胸の甘いときめきは、一瞬でシュンとしぼんでいく。浮かれそうになった自分が恥ずかしく、真っ赤になってローゼは頷いた。
「わ……分かりました」
あまりに冷静な対応に、ディルクのほうは拍子抜けする。もっと驚くか、喜ぶかすると思っていたのだ。
ついついぎこちなく、その先の展望を伝える。
「……まあ、なんだ。その。……クレムラート領に戻ったら、ご両親にも挨拶に行こう」
「えっ、そんなことまでしてくださるんですか?」
「当たり前だろう? 結婚するのに親の了承を取らないなんて話があるか」
「そ、それは」
(でも、偽の婚約でもそんなことするの?)
ローゼはそう思ったが、敵を騙すには味方からという言葉もある。アンドロシュ子爵家から調べられたときに困らないようにという配慮なのだろう。



