「勝手にいなくなってごめんなさい」
「いや、仕方ないだろう。脅されていたんだ。俺が目を離したのが、悪かったんだよ」
「そんなことありません」
腕の力を緩め、ディルクは先を続ける。
「……話を戻そうか。君の家族がブレーメン花農園夫妻であることは変わりない。だが、感情論とは別に、君とパウラ夫人との血のつながりも否定はできない。もし、血縁関係を理由に君を引き取りたいと言われたとき、彼女たちでは、君を守り切ることができないんだ」
「そ、そんな話になっているんですか?」
「これからそういう可能性が出てくるってことだよ。いいか? 初対面のエーリヒ殿が一発で君をパウラの娘だと断言するくらい、君たちは似ている。その噂が、アンドロシュ子爵のもとに届かないわけがないんだ」
ローゼはディルクから先ほど聞かされたエーリヒの話を反芻する。
人形のような娘を愛玩し、屋敷に閉じ込めて楽しむ性癖を持つというアンドロシュ子爵。彼のもとへ行くのは籠の鳥になるのと等しい。
ローゼはゾッとして俯く。ディルクは彼女の肩を掴み、真剣な顔を彼女に近づけた。
「だからこそ、……性急なのは分かっているが……俺と結婚してくれないか?」
その瞬間、ローゼの頭からすべての懸念事項が飛んでいった。
(今なんて言いましたかー!)
先ほどの告白がようやく本物だと実感できたばかりなのに、今度はプロポーズだ。到底現実とは思えない。



