ローゼはその時になってようやく、ディルクの手や頬に軽いひっかき傷があるのを見つけた。
血は止まっているようで線のように赤い筋がいくつもついている。
その傷を手でそっと触り、ディルクは誇らしげに笑ったのだ。
「今回は願いをかなえてもらえたからな。要は神様も万能じゃないってことだろう。だとしたら、今までの借りを返してもらう。今度こそ、すべてに決着をつけてやる」
しかしいまいちローゼには通じていない。
「……どんな願いをかなえてもらったんですか?」
ディルクは若干調子を崩されたように苦笑し、ずっと握っていた手を引き寄せた。
引っ張られて、ローゼはディルクの腕に包まれる。
「君を守らせてくれ、とね」
「ディルク様っ?」
「知識も力も、努力すればある程度は手に入る。しかし、運だけはそうはいかない。目の前で君が襲われていたなら、助ける自信はある。しかし、見つからなければ助けられるものも助けられない」
ぎゅ、と背中に回された腕に力がこもった。
「ローゼを見つけさせてくれ……と、願ったんだ」
「……ディルク様」
(私のこと、探してくれてたんだ)
先ほどからの熱のこもった声に、ローゼのときめきは止まらない。
夢だったのかもしれないと疑いそうになっていたあのキスは、本物だったんだと思えて泣きたくなる。



