「君は運が良かったんだろうな。君の両親は愛情深い。……血のつながりだけが家族の証というわけでもない。愛情のない家族もたくさんあるよ。実際、俺の家族だって、愛情がなかったわけではないだろうが、仲がいいわけでもなかった。俺は離れて暮らしていたから余計だな。日常の記憶がないから、どうしても思い出が薄れるのが早い。今も墓参りこそ行くけれど、特に失ったことを悲しいとは思っていない。そう思えば、君を赤ん坊のころから育てたのは、間違いなくあの花農園のふたりだ。君の成長のすべてを見てきている。君の両親は彼らだと言って差し支えないよ」
「ディルク様」
彼の励ましは嬉しかったが、彼自身は家族に恵まれていないと感じているようなのが、ローゼには切なかった。
ディルクはそのあと、九年前の事件についての一通り話した。
彼女を救おうとした人々に重なった不幸な出来事の数々。
一縷の希望が、クレムラート伯爵とドーレ男爵の馬車の衝突という事故によってすべて壊れてしまったこと。
「……神様はいないのかしら。どうして、ディルク様のご家族は死ななきゃならなかったの?」
ぽつり、と言ったローゼに、ディルクは口元を緩めて優しいまなざしを向けた。
「それは俺も思ったな。父や母はともかく、何の罪もない妹が巻き添えを食うのだけは納得がいかなかった。……だが、今は少しだけ信じようと思い始めている」
「どうしてですか?」



