「ギュンター、君、父君に噂を流してくれないかい。『九年前のドーレ男爵の事故は実は仕組まれたものだった』とね。それが真実であってもなくてもいい。男爵位の復活を検討するためのきっかけにさえなればいいんだ」
「父に……かい? ああ。国王まで話を届かせたいということか」
「そう。父上とベルンシュタイン伯爵は妙に馬が合うらしいからね。俺の話は聞かなくとも、伯爵の話ならば捨ておきはしないだろう。……フリード殿!」
「はい」
フリードは背筋を伸ばし、期待を込めてクラウスを見つめる。
「爵位を復活させた場合、領土が必要になる。その場合は君の領地の一部を与えることになるが構わないかい?」
「もちろんです。もともとのドーレ家の管理地はすべて渡して問題ありません」
そしてクラウスは、息をつめて見つめるディルクに笑いかける。
「そして君は、ローゼ嬢と婚約するんだ。見たところ君たちはいい仲なんだろ? ローゼ嬢が嫌がらないように誰かの庇護下に入らなければならないのなら、君以外に適任者はいないだろう。君の仕事は、彼女と彼女の両親の説得だ」
「……クラウス様」
ディルクとフリードは共に顔を合わせ、そろって頭を下げる。
「ありがとうございます!」
「いやいや、あはは、俺って冴えてるな」
浮かれた様子のクラウスに、ギュンターだけがすがめた視線を向けてひと言付け加える。
「それだけか? お前が自分の利益を追求しないわけがないと思うんだが」
至極失礼なことを言われているにもかかわらず、クラウスは満足そうな笑みで親友を見つめた。
「さすがにギュンターはごまかせないな。……そう。実はドーレ男爵家の家名を利用したい。しかしそれはうまくパウラ夫人を手に入れることが出来たらの話だ。君たちだって甘い汁を吸うんだから、俺に協力してくれるだろ?」
フリードとディルクは苦笑しながら目の前のふたりの男を眺める。
どうやらクラウス王子とギュンターは、一筋縄ではいかないとんだ狸のようだった。



