「貴族じゃない……とは言えないだろう? 少なくとも半分は入っているんだし。どっちみち、彼女は人の目に触れてしまったんだ。今日の評判を受けて、アンドロシュ子爵はローゼ嬢がパウラ夫人の娘かも知れないと接触を図ってくるだろう。……ディルク君だったな。見たところ君は彼女に惚れているようだな。だったらいい提案があるんだ。ちょっと、女性陣は悪いけれど続き間のほうに下がっていてくれないか?」
クラウスは、いたずらを思いついたような顔をして手招きをする。ディルクは不審に思いつつ、ローゼをエミーリアに託した。エミーリアは自分がのけ者にされることが不満そうだったが、第二王子の命令と言うこともあり、渋々と続き間へ下がる。
続き間の扉が閉まったのを確認してから、クラウスは残る男性陣を自分の近くに呼んだ。
聞き耳を立てていそうな妻を警戒して、フリードの声が潜められる。
「クラウス様、何を考えておられます?」
「ローゼ嬢を農家の娘のままにしておくのはよくないよ。子爵家から圧力をかけられたときに守り切れなくなるだろう。それなりの身分のある家に養子に入れたほうがいい」
「待ってください。ローゼはまだ自分が養子である事実も知りませんし。家族仲もよく、そんな提案に頷くとは思えません」
「分かってるよ。襲われたのもあって、大分参っているようだしね。だが、一つだけ手はある」
クラウスはにやりと笑い、ギュンターを振り仰ぐ。



