「大丈夫です。ディルク様が助けに来てくださったし。……ただ、その。……やはり私は侍女です。こんな服を着るような身分じゃない。……着替えさせてもらえませんか」


首回りが破れたドレスは、ローゼに襲われた事実を突きつける。
目を伏せたローゼに、ふたりは気まずそうに顔を見合わせた。


「……そうね。ごめんなさいね、ローゼ」


エミーリアは彼女を気遣うように背中を撫で、「でも今日は日帰りのつもりだったから着替えがないわね」と困ったように振り返る。


「当座の着替えなら用意させるよ。だが、令嬢の役はもう一度してもらわないといけないよ」


聞き覚えがない声に驚いて、ローゼは隣室の中を見渡す。
すると窓の近くにギュンターとフリード、そしてソファには第二王子がいるではないか。


「く、クラウス様?」

「やあ、ローゼ嬢。聞いたよ、君が花農家の娘だというのもね」

「も、申し訳ありません。王家の方を騙すなんて大それたことを……どうぞお許しください!」

「許してもいいよ。その代わり俺の計画に協力してほしいんだ」


先ほど暴漢に遭った女性に対してとは思えぬマイペースぶりで、クラウスはゆったりと笑いかける。


「俺はね、アンドロシュ子爵の奥方に会ってみたいんだ。そのために君の協力が必要だ」

「クラウス様、お言葉ですが」


ディルクがローゼの肩を抱いたまま、食って掛かる。


「先ほども申し上げた通り、これ以上ローゼを危険にはさらすのには賛成できません。彼女は貴族じゃない。平和に生きる権利があります」