マドンナリリーの花言葉



 翌日、ローゼはいつものように仲買商人から花を受け取った。服装はいつものメイド服ではなく、私物である水色のストライプのワンピースだ。


「あれ、今日は休みじゃないのかい? ジルケに頼んだつもりだったんだけど」


メイド長のナターリエは、ローゼの姿を見て眉を寄せる。


「ええ。でもジルケが今腹痛で部屋に籠っているので、代わりに来ました」


もちろん嘘である。本当はジルケに頼み込んで変わってもらったのだ。


「ジルケ、大丈夫かい?」

「ええ。落ちついたら出てくると言っています」


心配そうなナターリエに笑顔で答え、いつものように花瓶を各部屋からとってくる。
戻ってきたとき、作業場にはディルクの姿があった。服装はいつもとそう変わらない白いシャツにダークブラウンのベスト。ただいつもはきちんと整えられた髪が、今日は少しだけ遊んでいた。


「ああ、ディルク様、今日はお休みでしたね。どれになさいます?」

「そうだな」


ナターリエに促されて、花を物色しているところらしい。
黙ってみていると、彼は白い大ぶりのユリを選び出した。


「これをメインに、花束にしてもらえるかな」


マドンナリリーという花だ。天に伸びる茎から、白いラッパ上の花が上向きにつく凛とした印象の花。
ローゼの実家の花農園でも作っている。
聖母を表すユリで、宗教画にもよく描かれる。
花言葉は天界の美。他にも、純潔、気品、貞節、神聖な結婚、受胎告知、など、聖母を表す言葉がこの花には充てられている。

故人に……しかも両親に手向けるには少々イメージの違う花だなと、ローゼはそれを見て思う。