(何をやっているんだ、俺は)


早く食べなければと言っていたのに、とますますディルクが焦ったところで、ようやくローゼが口を開いた。


「愛のある家庭を築きたいとか……私、あなたの気持ちも考えずに余計なことばかり言ったなと思って」

「なんだそんなことか」


自分の言動が彼女を傷つけたわけではないと分かってホッとする。そして、そう思ったことに恥ずかしいような心地がしてくる。


「別に気にすることはない。君の気持ちは君のものだろう。俺に気を使って言いたいことを言えないほうが問題だ。……離れて暮らしていた分、そこまで家族に思い入れがないんだ。父が浮気をしていても、苛立ちはあるが悲しいわけじゃない」

「そうですか」


気にするなと言っているのに、ローゼはしょげたままだ。ディルクは無性にやきもきしてくる。


(感情が顔に出過ぎるのも善し悪しだ。見てるこちらの気分まで左右される)


「ローゼ」

「はい?」

「君は花に詳しかったな。夜会のときにフリード様からの贈り物として王宮に飾る花を贈る予定なんだ。手の空いた時でいいから、どんな種類がいいか見立ててくれないか?」

「私がですか?」


ポカンとしつつも、口の端が上向きになる。


「ああ、君に頼みたい」


ディルクが念を押すように言えば、先ほどまで落ち込んでいたはずの彼女はぱっと顔を晴れ渡らせた。


「はい! ぜひ。私でお役に立てるのなら!」


元気な返答にディルクはようやくホッと息をつく。
自分の心の変化を認めるのが嫌で、立ち上がると彼女の頭をくしゃくしゃとかきむしり、そのまま歩き出す。


「あ、ディルク様は召し上がらないんですか?」

「俺はいい。フリード様に報告に行ってくる。君も早く食べないといけないんだろう?」

「あっ」


そうでした、と言いながら、ローゼは目の前の食事へと意識を移す。
夢中で食事をかっこむ彼女を遠目で見ながら、ディルクは自然に微笑んでしまっていた。