ディルクがクレムラート家に帰ったとき、通りがかった使用人用の食堂ではローゼが食事をとっていた。


「やあ、ローゼ」

「お帰りなさい、ディルク様」

「ひとりか?」

「今、メラニーさまはエミーリア様の湯あみのお手伝いをなさっています。その後交代することになっていますので早く食べないと!」


今日の夕食はシチューだ。使用人用の食事は、皆がそれぞれに都合のいい時間に食べるので大鍋料理が多い。ディルクは胸ポケットから懐中時計を取り出しちらりと確認した。
戻ったことをフリードに報告するべきだが、もう少しいいか、とも思う。奥方が湯あみ中ということは、フリードは書斎で読書中だろう。


「向かいに座ってもいいか?」

「えっ?」


ローゼは驚いたように体をびくつかせたかと思うと、慌てて口に入っていたものを飲み込もうとし、むせた。
涙目になりながら、「ごほっ。ど、どうぞ。あの、すみませんっ」などと必死に答えている。

ディルクは呆れながらもホッともしていた。
裏表のないローゼを見ていると、時折無性に安心してしまう。


「落ち着けよ。水でも飲むといい」


ディルクはグラスに水を注いで持ってきて、ローゼの前に置いた後、向かいに腰かけた。
ローゼはすぐさまそれを飲み込み、胸を叩いてゼイゼイと息を切らしている。