「ストーカーとか、女性の方が粘着質って話もたまに聞きますしね」
「ね。でも、襲い掛かられたところで貞操がどうのってことでもなさそうだし。一応、営業担当には話しておくつもりだけど」
「それがいいですね。なにかあってからじゃ遅いし。……そろそろ帰ります?」
時計を確認すると、十八時四十分。
佐藤さんは「そうね」とうなづいたあと「あ」と声をもらし立ち止まった。
「ちょうどいいから、私、営業フロアに立ち寄ってさっきの話してから帰るわ。ちょうど、松田さんの顧客のことで報告しておきたいこともあったし」
「わかりました。じゃあ、お疲れ様でした」
ぺこりと頭を下げ、更衣室を出る。
それからスマホに連絡がないことをもう一度確認してから支店のドアを開けた。
もうすぐ十九時だっていうのに、まだ空は昼間の余韻を残していて明るい。
日が延びたなぁ……と夕焼けと夜の間くらいの空を眺めながら一歩歩き出したとき「唐沢。お疲れ」と声をかけられ、驚く。
見れば、行員用出入り口近くの壁に背中を預ける宮地の姿があった。
吸っていた煙草を、ギュッと携帯灰皿に押し込んだ宮地が、壁から背中を離す。
「お疲れ様……どうしたの?」
営業カバンを持っていないし、たぶん、仕事は終わったんだろう。
Yシャツを肘の下あたりまでまくっている宮地が「この時間になっても暑いなー」と笑いながら近づいてくる。
ふわっと、いつも宮地が吸っている煙草の匂いが舞う。



