「結局、『やっぱりいいです』って言ってどっか行っちゃったんだけど、たぶん、そういうことかなぁって私も思って。
でも、その話をこの間同期の子に話したらね、その支店の窓口の子がお客様に気に入られちゃってお店の前で待ち伏せされてたりってことがあったらしいの」
眉を寄せた佐藤さんに「そうなんですか……?」と驚く。
でも……ないことではないかもしれない。
「両替の手数料だったり他の手数料だったりで領収書出すでしょ? そこに押すのってフルネームの印鑑だし、そこから名前も知られちゃってたみたいで、他の男性行員がお店の外に出たとき、その子の名前出して『友達なんですけど、まだ中にいますか?』とか聞いてきたとかで」
「えー……怖いですね」
「幸い、怪しいと思った男性行員がその場をうまく誤魔化して、その子と支店長に報告して発覚したって話。
一昨年だかにフルネームの印鑑作るってなったときから、本部ってバカなんじゃないのって思ってたのよね。この物騒な時代にフルネームってねぇ」
嫌そうな顔でため息をついた佐藤さんに、「そうですよね」と同調する。
企業宛の領収書ならともかく、個人の方に自分のフルネームの入った領収書を切るのは正直少し抵抗がある。
両替なんて枚数が百枚を超えれば手数料がかかるから、一元客だろうが誰だろうが領収書を切らなきゃだし……。
それを悪用された例は初めて聞いたけれど、普通にありえることだ。
「まぁ、だから、私が見かけた子がそうってわけでもないんだけど。第一、可愛い女の子だったし。
でもほら、松田さんとか宮地さんとか、顔立ち整ってるじゃない? もしかして……って思って」
たしかに……宮地とか松田さんって、雰囲気も物腰も柔らかいからちょっと話しただけでも好意を持たれそうだ。



