Honey ―イジワル男子の甘い求愛―



「でも、涼太にあそこまで冷たくされても諦めないなんて、健気だよね」

ふたりの様子を見ながら呟くと、不意に、女の子がこちらを向く。

目が合ったところでお互い知らないけど、じっと見てしまっていただけに気まずく思い、視線を逸らそうとしたとき。
女の子がニヤッと笑った気がした。

そして、見つめる先で、こちらに視線を向けながら涼太の腕に抱きつくようにしがみつく。

直後、うっとうしそうに振り払われてはいたけど……でも、今、たしかにこっちを意識していたように見えた。

気のせい……?

「あの子、今、私たちの方見たよね?」

窓の外に視線を向けたまま、菜穂が確認するように聞くから、「……うん。たぶん」とうなづく。

「だよね? その上で、涼太にくっついてたよね?」
「菜穂、会ったことないの?」

「ないない! 今、初めて見た」
「……じゃあ、なんでこっち見て笑ったんだろ。菜穂の顔も私の顔も知らないはずなのに」

だいたい、女の子からここまで、五メートル以上はある。

菜穂や私だって、涼太だったから気付いたけれど、これがたいして知らない人だったらまず気付かない。
見慣れた人じゃなきゃ無理だ。

なのに、あの子はなんで私たちに気付いたんだろう……。

「私たちじゃなくて、他の人を見てたのかな? 勘違いかもね。あっちからだと店内は見えづらそうだし」

それ以外ありえない気がして言うと、菜穂は釈然としない顔をしながらも「んー……そうなのかなぁ」と呟く。

眺めている先、涼太の姿はもうかなり遠くなっていて……テーブルの上では手がつけられないままのケーキが六個並んでいた。