「そういえばね、遊園地のチケットもらったから一緒に行かない?」
「遊園地?」
「そう。お父さんが仕事相手にもらったとかでね、七千円の入場料が無料なの。さすがにパーク内の食事は実費だけどねー」
残念そうにする菜穂に「チケット代だけでもすごいよ」と呆れてから聞く。
「でも、私も一緒に行かせてもらっていいの? 他に行きたい人とか大丈夫?」
結構な頻度で会っている私とじゃなくて、久しぶりに会いたい友達とかもいるんじゃないのかな……と思っていると、菜穂は「大丈夫」と笑顔で答えた。
「知花と行きたいんだもん。ほら、社会人になってからぱーっと遊んだことってなかったじゃない? だから、久々に一緒にはしゃごうよ。来週か再来週くらいにでも」
「うん。じゃあ、行こうかな」
菜穂の言うように、社会人になってから遊園地なんて行っていない。
季節的にも梅雨が明けたところで、真夏ってほどの気温でもないから丁度いいかもしれないなぁと考えていると、菜穂が「チケット、三枚あるし……仕方ないから涼太でも誘ってやるか。あいつ、誕生日近いし」とため息をつくみたいに言った。
「私だけだったら絶対についてこないだろうけど、知花も一緒だって話せば絶対くるよ。あいつ、口先と違って行動だけは素直なんだよねー」
そんなことを言われ、一瞬ドキッと音を立てた心臓に気付かれないように「……そうかな」と笑顔を作る。
菜穂に、〝涼太は知花が好き〟みたいなことを言われても、今まではありえないって片づけられていたのに……今はそうできず、可能性が消しきれないでいた。
キスされたり抱き締められたりと色々あっただけに、それを思い出すと少し意識してしまうけれど。
一方の涼太は態度だって普通だし、あの日のことなんてなにもなかったような感じだ。
私の感覚では、あんなことがあって、しかもきちんとした事情もわからないのにいつも通りでいるのは正直、ありえない。
でも、涼太が相手となると、ギクシャクする方がおかしな気がして普通に接せている。
そう考えると……なんだかんだ言って、涼太は私にとって特別枠なのかもしれない。



