「すみません。佐藤さんに聞いて、サイズは知ってました」
「あー……なんだよー。唐沢に〝ホールじゃないじゃないですか!〟ってブチギレられたらどうしようかと思った……焦ったー」

ホッとした様子の松田さんに宮地もケタケタ笑いながら謝る。

「すみません。クリスマスでもホワイトデーでもないのに女性行員にケーキとか、なんかカッコいいことしてるからちょっとからかいたくなっちゃって」

へらっとした顔で謝った宮地に、松田さんは呆れた様子で「まったくおまえは……」とため息を落とす。

「もっと俺を先輩として扱えよな」
「いや、ちゃんと尊敬してますよ。俺が見本にしてるの松田さんですし。ただ、親しみやすさが異常ってだけで」

「俺のコミュニケーション力の副作用か……。そういえば、今思うと俺、学生んときも後輩によくからかわれてた気がするわ」

自嘲するような笑みで思い出にふける松田さんに「ケーキいただきますね」と声をかけてから、箱の中にあったプラスチックのスプーンを取り出し、ケーキを紙皿にのせる。

それを手に持ちひと口食べると、濃厚なチョコレートの味が口の中に広がった。

「ん。おいしい」

感想をもらすと松田さんがパッと表情を明るくする。

「だろー。うまいよな、それ。去年のバレンタインにかなり売れたらしくて、それから定番になったんだって」
「ここのケーキ、見た目も可愛いからイベント事にいいですよね。松田さんも食べたんですか?」

チョコレートはずっしりとして濃厚だけど、甘さはしつこくない。
タルト生地もさくさくとしていて、それが口の中で混ざっておいしい。

とても上品な味だ。

まるで自分でも食べたことがあるみたいな言い方だったから聞くと、松田さんは苦笑いをこぼす。