「そうそう。ちょっと小ぶりで値段も高いんだけど、おいしいのよね。なかなか自分じゃ買えないけどお土産には丁度いい感じの。
今日買ってきてくれたのはみんな同じので、生チョコケーキのタルトっぽいやつ」

「へー、おいしそう。佐藤さんはもう食べたんですか?」
「うん。手が空いてそうな人から声かけたから、もう残りは唐沢さんだけ」
「じゃあ、ちょっといただいてきますね」

「ごゆっくりー」と佐藤さんに送り出され給湯室に向かうと、そこには松田さんと宮地の姿があった。
たぶん、煙草休憩していたんだろう。フロア内は基本的に禁煙だから。

仕事柄なのか、営業担当のほとんどが喫煙者で、給湯室に残された吸い殻の量を見るといつも心配になってしまうほどだ。

フロアとの間にある厚いドアをバタンと閉めると、それに気付いたふたりが談笑をやめ、こちらに視線を移す。

「お疲れ、唐沢。俺のおごりのケーキ思う存分食べるがいい」

私を見るなりドヤ顔で笑った松田さんの隣で、宮地がニヤッと口の端を上げ「喜べ、唐沢。ホールケーキ思う存分食べていいって」と続く。

このニヤニヤ顔は、からかうときによくする顔だ。

松田さんが目を丸くして「え」と宮地を見上げたのと同時に「えー、どうしよう。そんなに食べられるかなぁ」と首を傾げてみせると、今度は私に視線を移した松田さんが慌てだす。

「いや、唐沢、違……」
「松田さん優しいよなー。女性行員全員にホールひとつずつとか」

「ちょっと待て。ちょっと……え、宮地くん、急にどうした?」
「本当、先輩の鏡だよなぁ。俺も見習わなきゃ。ほら、見てみ。唐沢。こんなデカいホールケーキ食べ放題だって」

宮地がパカッと開いた白い箱のなかを覗くと、そこには可愛らしいサイズのチョコタルトがひとつ。
当然ながら、ホールではない。

「いや、唐沢、ごめん……っ、え、っていうか俺悪い? これ……」

私がガッカリしたんじゃないかと心配しオロオロする松田さんに、我慢しきれず笑ってしまった。

松田さんは本当に人がいい。