「……なんだよ。じっと見て」

あまりに見つめ過ぎていたからだろう。片眉を上げた涼太に言われハッとする。

「なんでもない……」

咄嗟に言い、目の前に置かれたおいしそうな苺タルトに視線を移し……なんとなく残っている違和感に首を傾げたくなった。

今交わした会話が、なんだか、らしくないような気がして。

だって、いつもの私だったら涼太に〝なんだよ〟って聞かれたら素直に答えていた。
〝涼太がやたら色っぽく見えて〟って。

なのに……なんで今、咄嗟に誤魔化したんだろう。焦って嘘つく必要なんてなかったのに。

苺タルト食べていいとか優しくされたから?

「知花ぁ、菜穂特製ブレンドのおいしい紅茶が入ったよー」

にこにこしながらティーポット片手に戻ってきた菜穂が、カップの中に紅茶を注いでくれる。
すぐに香りが立ち「いい匂い……」とこぼすと、満足そうな笑みが返された。

「でしょー。おかわりあるから言ってね。しょうがないから涼太にも恵んでやるか」

「飲んでやるからアイスティーにしろよ」
「沸き立てのお湯で淹れた紅茶だから、ありがたく飲みな」

三人のカップに無事、紅茶が入ったところで、「いただきます」と手を合わせケーキにフォークを入れた。

相変わらずおいしい苺タルトをひと口ひと口味わって食べる私を見て、涼太が「安い幸せだな」と呆れたように笑っていた。

その微笑みに、好意的ななにかを感じたのは……私の気のせいだろうか。