「……私の言ったこと?」

なんのことだか分からずに聞くと、宮地が言う。

「いくら俺が大事に想ってたところで、相手が結婚したりして環境が変わったら……ってやつ」

『それに、いくら宮地が大事だって想ってたって、相手に恋人とか家庭ができたらそっちを優先することが増えるかもしれないでしょ? 
環境が変われば価値観だって変わるものだし……〝ただの友達〟をいつまでも優先していられなくなる可能性だってあると思う』

ああ、あれか……と思い出しているうちに、宮地が続ける。

「今までは結婚って歳でもなかったしそんなこと考えなかったけど、唐沢に言われてたしかにそうかもしれないと思った。
そのうち結婚なんて話も出るかもしれないし……もし、今まで大事にしてたヤツを誰かに奪われたりしたらそれは気に入らねーなって」

じっと私を見ている瞳がどこか意味深に思え、なにかと聞き返そうとしたとき、それまで黙っていた鶴野が笑う。

「それはわがままってもんだろー。恋人にもしてやらないのに、他のヤツと結婚は許せないって。そんなん、相手の幸せ奪ってるだけじゃねーの? 
……え、待って。それって男女関係なく? もしかして俺が結婚しようとしたら宮地に止められちゃう感じ? まいったなー」

いい具合に酔っぱらった鶴野がはっはっはと笑いながら言うのを聞いて、確かにその通りだなと思う。

例えば……例えば、だけど。
恋愛より友情を優先する宮地が私を大事に想ってくれていたとして。

私がいくら望んだって恋人にはしないくせに、だったらと諦めて他の誰かと結婚しようとしたらそれはおもしろくないっていうことなら、そんなの勝手以外のなんでもない。

……でも、それでも、私が他の人と結婚するのを嫌がってくれるのかもしれないなんてことをどこかで喜んでしまうのは惚れた弱味なんだろう。

不毛な上、痛々しい思考に、自分自身でも呆れてしまう。

そんな自分を止めたくて、玉砕覚悟でしようとしていた告白はする前に終わってしまって、胸の奥で不完全燃焼を起こしていた。

身体中、煙で覆われたみたいに息苦しい。

「恋人とかって、息抜き程度の存在にしかしてこなかったけど……そっか。結婚とかそんな年だよな」

目を伏せた宮地が呟くように言った言葉を、ただ黙って聞いていた。