「お客様のおっしゃることはもっともだと思いますが、今は読み取れなくなってしまったら窓口に持ってきていただく以外に方法がなくて……ですが、そういった意見は本部に報告いたします。
仕組みが見直されるまでは本当に申し訳ないのですが、なるべく気を付けていただき、それでもダメになってしまった場合にはご面倒をおかけしますが窓口まで……」

「あー、もういいわ! 結局、長々と同じようなこと言ってるだけで、こんな無駄足踏ませといて私にはなにもしてくれないってことでしょう! 早く返して! あなた、なんの役にも立たないのね!」

お客様が私の手から通帳を奪うようにしてとった瞬間、指先にピッと痛みが走る。

覚えのある痛みに、紙で切ったかな……と思いながら立ち上がり「お手数おかけしてしまい、申し訳ありませんでした」と深々と頭を下げると、お客様はこちらに見向きもせずにお店を後にした。

お客様が出て行ったのと同時くらいに、課長が出入り口のシャッターを閉める。
時計を見ればもう十五時を回ったところだった。

はぁ……と息をつきながらキャスターつきの椅子にストンと座ると、佐藤さんがうしろから話しかけてくる。

「嫌な感じだったねー」

明け透けな言葉に、苦笑いで返した。

「でも、磁気がダメで店頭にくるお客様多いし、いい加減どうにかして欲しいですよね」

「確かにねー。でも、この通帳の磁気ってうちの銀行だけじゃないし、これ以上の仕組みって考えられてないってことでしょ? もっと他にありそうなものなのにね。本部の怠慢だ!って意見あげてみようか」

「それ、絶対目をつけられるやつですよね。意見あげるなら佐藤さんの個人名でお願いします」

「よし。やめよう」と、あっさり諦めた佐藤さんは私より三年先輩で、預金課に配属されて五年が経つ。

私が新入社員の時に指導係をしてくれたのも、この佐藤さんだった。
明るくて裏表のない性格で、行員みんなから好かれている人だ。