実のない会話をだらだらと楽しみながら、帰路につく。

駅まで向かおうとして、裏道との分かれ道に差し掛かり……どっちを進もうかと立ち止まると、うしろからポンと肩を叩かれた。

振り返ると、宮地が「お疲れ」と笑顔を浮かべていて、驚く。

菜穂には、また近いうちに会おうと言ってから電話を切り、携帯をバッグに入れながら宮地を見上げた。

「宮地も今帰り?」
「おー。最近、預金も遅いよな。だいたい、これくらいの時間だろ」

「うん。西支店に監査が入ったって聞いたでしょ? うちもここ数年入ってないし、そろそろくるかもしれないから書類の整理とかしてて」

監査というのは、支店側には事前連絡なしで突然入る検査だ。
監査部という、書類の検査を専門に扱っている部署が当日突然ぞろぞろと支店に訪れて、そこから一週間、支店内をくまなくチェックする。

調べるのは、もちろん、不正がないかどうかや、書類の不備だ。

間違った処理が行われていないか、そういったことを裏で検査されながら、支店の行員は通常業務を行わなければならないのだから、正直、気が気じゃない。

私も過去に一度、経験はあるけれど、重箱の隅をつつくような注意を散々された覚えがある。

「ああ、そういえば、西支店にいる知り合いがグチグチ言ってたな。あんなん、支店いじめだって。唐沢、駅に向かうんだろ? こっち?」

宮地が裏道を指しながら言うから、「うん」と返事をし、並んで歩き出す。
宮地が一緒なら裏道を避ける理由もない。