『会った時って、なんで? 電話じゃ言えないようなことでもあったの?』

引き下がってくれない菜穂に「ちょっとだけね」と答えを濁しながら外に出ると、夏の空にはまだ明るさが広がっていた。

もう十九時だっていうのに、夕焼けとも言えるような色をしている。
緩い風が吹いているのに、涼しさは全然感じなかった。

昼の名残を嫌というほどに感じる。

「それより、菜穂はお見合いどうすることにしたの?」
『え、断ったけど』

当たり前のように言われる。

「でも、おじさんすぐには引き下がらなかったんじゃない?」
『それがね、なんかすぐに探さなきゃいけない物件があるらしくて、そっちに気が逸れてたから大丈夫だった。新築の3LDKで、できたらデザイナーズマンションがどうのとか言ってたから、それなら賃貸より買ったほうが長年住むなら得じゃない?って話したら〝そうだな!〟って機嫌よく帰っていったけど』

「えっ」

まさか涼太と私の部屋じゃないよね……と思いながらも、その可能性が消し切れなくて戸惑っていると菜穂が言う。

『お見合い写真もさぁ、見たけど、あんまりピンとこなくて。それに私、結婚とか正直興味ないんだよね。家庭に入って家事してる私って想像つかなくない?』

「それは……ちょっとつかないかも。でも、だったら共働きとかでもいいんじゃない? 逆に、結婚したら家に入って家事したいっていう男の人もいるかもしれないし。
ほら、仕事と家事の男女逆転みたいなスタイルも今はそこまで珍しくないって聞くし」

『まぁねー。たしかに、ひとり暮らししてると家事面倒くさいから、そういうことしてくれる旦那がいたら楽そうだけど……そもそも他人と暮らすのが面倒そうだしなぁ』