「角砂糖って言ったのに、なんで上白糖買ってくるの、もー……全然違うのにっ」

土曜日、昼下がりの菜穂の部屋。

『来るついでに角砂糖買ってきて!』と頼まれた涼太が持ってきたのは、上白糖一キロだった。

「せっかくのおいしい紅茶なのにー……。絶対、シュガーポットから角砂糖つまんで入れるのが気分的にもいいに決まってるのにー」

砂糖の種類の違いを怒る菜穂に、涼太は部屋に上がりながら眉を吊り上げる。

「甘くなればなんでも同じだろ。だいたい、〝ついで〟っておかしいし。
俺の部屋からこの部屋の間にコンビニもスーパーもないって知ってんだろ。わざわざ遠回りして買ってきてやったのに、その態度とか。一生嫁に行けないんじゃねーの」

「……小さい頃は、〝お姉ちゃんお姉ちゃん〟ってあんなに愛らしかったのに、なんでこんなに生意気に育っちゃったんだろうなぁ」

「性格の悪い姉を傍で見てきたからじゃねーの」
「中学高校と、付きまとってくる女の子がうっとうしいっていう涼太のために、身体を張って女の子たちの相手して追い返してあげてたの誰だっけなぁ。
……まぁ、いいや。私が買ってくるか、仕方ない」

バッグを肩にかけた菜穂が「ごめん、知花。ちょっと待ってて」と言い、日傘片手に部屋を出ていく。

その後ろ姿を「うん。気を付けてね」と見送っていると、洗面所から涼太が戻ってきた。

視線がぶつかり、パッと急いで目を逸らしてから、しまった……と反省する。
目を逸らす必要なんかなかったし、むしろ、きちんと向き合わなくちゃいけないのに。