「気まぐれに帰り道変えてんじゃねーよ。電話しなかったら待ちぼうけしてるところだった」
「え……あ、もしかして裏道から支店に向かってたの?」
「おまえ、俺がいくら言ってもあっちの道の方が近いからって裏道選ぶだろ。だから」

気に入らなそうにため息を落とす涼太に「ごめん……」と謝るとため息で返事をされ、言葉に詰まってしまう。

だいぶ機嫌の悪そうな涼太に、う……と何も言えずに黙っていると、手首を掴まれ歩かされる。
来た道を引き返すことになり、不思議になって涼太の後ろ姿に話しかけた。

「涼太、駅ならあっち……」
「こっちの方が近道なんだろ。おまえひとりじゃないなら危なくもねーし」
「ああ、そっか」

納得して歩き出したけれど……そのうちに、涼太に掴まれたままの手首が気になってしまい、そこをじっと見つめる。

涼太と私の間で揺れるそれを、私はずっと意味なんてないものだと思っていた。
それこそ、幼稚園児が繋いでいるような感じにしか捕えていなかった。……本当に失礼な話だけど。

それだけ涼太は私にとって親しい間柄だと思っていて……でも、そう思っていたのは私だけで。

こうしてふたりで歩いたり、手を繋いだり、軽口を叩きあったり。
そういったなんでもないことを、もしかしたら涼太は大事に想ってくれていたんだろうか。

口こそ悪いけれど優しい涼太を知っているから、きっと私がなんでもないように過ごしてきたことの中にも、大事にとっておいてくれている思い出があるのかもしれないと思うと、申し訳なさすぎて泣きたくなる。