「私も行くよ」と席を立とうとすると、菜穂が「いいから、知花はここにいて」と止める。

「涼太ひとりにしておくと、女の子寄ってきたとき面倒だから。ほらこいつ、ひどい言葉で断るから」
「ああ……なるほど」

菜穂の言う通りだ。
こんな夢の国で歯に衣着せぬ言葉を浴びせられる女の子が可哀想だ。

少しして戻ってこなかったら手伝いに行けばいいか……と思い、椅子の背もたれに背中をつけてから、斜め右に座る涼太を眺めた。

正直な話。
宮地からの告白を聞かれてから、涼太との仲は少しギクシャクしてしまっていたけれど、それも今日の午前中ですっかり元通りに戻っていた。

アトラクションの待ち時間で嫌でも話すし、乗り終わったあとは、お互いにテンションが上がって笑い合ったり。

菜穂がからかうために、涼太のTシャツに〝バースデーシール〟をつけたせいで、キャストの人とすれ違うたびに「おめでとうございますー!」なんて言われるから、その都度、不機嫌になる涼太を笑ったり。

そんなことをしている間に、わずかにあった気まずさは姿を消していた。

椅子に浅く腰掛け、背もたれに寄りかかった涼太は、暑そうに髪をかきあげる。
惜しげもなく現れた綺麗な顔に、わずかに胸の奥がコロンとおかしな音を立てたような気がしたとき。

涼太の瞳がこちらを向くから、コロンをかき消すように胸がドキッと大きく跳ねた。

「疲れただろ。あいつ、子どもみたいに体力に限界ないから」
「菜穂、元気だもんね」
「今日、すげー暑いし、気分悪くなったりとかは?」
「大丈夫だよ。まぁ、涼太からしたら〝年寄り〟だから心配にもなるんだろうけど」

ショートパンツのポケットに挿すように入れていたパンフレットを取り出しながら笑うと、涼太は「一歳半しか変わらねーだろ」と目つきを厳しくする。