だって……私が宮地に抱いていたツラさや苦しさを、涼太は私に抱いていたってことだ。
あんなに傍で私は涼太を傷つけ続けていたんだ……と思い、唇をかみしめる。
涼太はずっと真剣に想ってくれていたのに。
『ずっと好きだった』
金曜日に言われた言葉にどれだけの想いが込められていたかを知り、胸の痛みが重く増す。
「私は、四月に向井さんに会ってからずっと向井さんだけが好きです! 向井さんは、私を痴漢から助けてくれたヒーローなんです。そんな向井さんがツラい思いをしてるのは耐えられない!」
大きな声で言った女の子が、キッと私を睨む。
あまりに声が大きいせいで、うしろの大通りを通る人たちがチラチラとこちらに視線を向けていた。
「向井さんがあなたが好きみたいだから、私、髪だって切ったんです! 色も、もっと明るい茶髪だったけど暗くしたし。メイクだって薄くしたんだから。
歩き方だって、立ち姿だって、電車の待ち方だって! 偉くないですか、私!」
鼻息を荒くする女の子に、やっぱり変な視線はこの子だったんだと確信する。
「正直、向井さんを落とす自信はあります。だって、唐沢さんよりも私の方が断然可愛いし! でも、唐沢さんが向井さんの前からいなくなってくれたら、もっと早く私に振り向いてくれるんです。
だから、向井さんに応える気がないなら……っていうか、応える気だとしても向井さんにはもう会わないでほしいんです」
目をいっぱいに見開いて言う女の子の迫力に、思わず声を失ってしまう。
脅迫じみた行動ではあるものの、本当に涼太のことが好きなんだなっていうのが伝わってきて……私も曖昧な態度は返せないと思った。
この子の言うことは……度の問題はあるにしても、間違ってはいない。
涼太の気持ちに応えられないなら、離れた方が涼太のためだ。
私だって、涼太の立場ならそう思う。
だって恋愛対象に見てもらえないのに……振り向いてもらえないのに一緒にいるのは苦しいから。
それを、私は知っているから。



